山口家庭裁判所下関支部 事件番号不詳 判決
本籍 愛媛県越智郡波方村大字小部甲五五番地の四第二
住居 山口県下関市大字彦島江之浦六町一、一一〇番地
会社員 矢原秀夫 大正三年六月五日生
主文
被告人を罰金壱万五千円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金弐百五拾円を壱日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人に負担させる。
理由
犯罪事実
被告人は、山口県下関市大字彦島江之浦六町一、一一〇番地で待合業を目的とする有限会社翠玉の代表者としてその業務の執行に当つているものであるところ、右営業に関し従業婦として順次昭和一四年三月四日生れのE子および昭和一五年二月二二日生れのB子を雇入れ
一、前記E子をしてE子という芸名で昭和三〇年一〇月八日頃より同年一一月一〇日頃までの間六日間位を除いた外毎日前記営業所で氏名不詳の客多数を相手として対価を得て情交させ
二、前記B子をしてI子という芸名で同年一一月一七日頃より昭和三一年二月一七日頃までの間一四日間位を除いた外毎日前記営業所で氏名不詳の客多数を相手として対価を得て情交させ
以てそれぞれ児童に淫行をさせたものである。
証拠
判示冒頭の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述および被告人の検察官に対する供述調書の記載
二、E子の検察官に対する供述調書および同人に対する戸籍抄本の各記載
○○ミエ子の検察官に対する供述調書の記載
三、B子の検察官に対する供述調書謄本および同人に対する戸籍抄本の各記載
瑞木カズヨの司法巡査に対する供述調書の記載
判示一 の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述および被告人の検察官に対する供述調書の記載
二、E子の検察官に対する供述調書の記載
三、押収してある芸名E子名義の水揚帳一冊(昭和三一年領第三号の一)の存在ならびに内容記載
判示二 の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述および被告人の検察官に対する供述調書の記載
二、B子の検察官に対する供述調書謄本の記載
三、押収してある芸名I子名義の水揚帳一冊(前同領置番号の二)の存在ならびに内容記載
被告人および弁護人の主張
被告人および弁護人は、当公判廷において、判示B子に関し、同女は西村某および吉村某の仲介で雇入れを申込み、その際同女ならびに仲介人等はいずれも同女をS子と称したので、B子をS子であると信じ、S子に対する戸籍抄本を調べたところ、S子は既に満一八歳に達していたのでB子を判示のごとく稼動せしめたものであるから、仮令S子がB子の姉であつてB子その人ではなかつたとしても、B子が満一八歳未満であつたことを知らなかつたことに過失はなかつた旨主張するけれども、
およそ、この点に関する児童福祉法の精神は児童として淫行に至らしめることに寄与する一切の原因を排除せんとするにあり、すべての人は児童が心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならないものであつて、一体児童であつて自ら従業婦となろうとするような者が満一八歳未満であることを秘するため雇主に対し他人の氏名を冒用しまたは虚偽の年令を告知することは往々存する事例であり、とくに仲介人のみが介在し保護者がつまびらかでない場合にあつては一層そのような手段が行われ易い危険があるものであるから、このような場合、従業婦たらんとする婦女の年令を確認するに際しては、単に当該婦女が自称する氏名をたよりに直ちにその戸籍謄、抄本などを取調べるようなことをしないで、これに先立つて親許、親族などに照会を発するとか、もし不審の点があるならば官憲の協力を求めるなどその人違でなきや否やを確知するため万全の措置を講ずることは被告人のような業種にたずさわる者に課せられた義務であるのにかかわらず、被告人は、その自ら主張するように、判示B子ならびに仲介人西村某および吉村某がいずれも同女をS子と称したのでB子をS子と速断しS子の戸籍抄本を調べただけで、B子とS子とは別人であることを確知するなんらの措置も講ぜず、したがつてB子の年令を確認する方法を採らなかつたものであるから、S子の年令を知了したとしても、B子の年令を知らなかつたことに過失がなかつたということはできないので、右主張は採用しない。
適条
各児童福祉法第三四条第一項第六号、第六〇条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項―罰金刑選択―刑法第四五条前段、第四八条、第一八条、刑事訴訟法第一八一条第一項本文
(裁判官 横山正忠)